オペラ「道化師」
【あらすじ】

道化師のトニオが登場し、道化師の悲哀を前口上として歌うと幕が開く。

第一幕
とある田舎の村に今年も旅芸人の一座がやってきた。
二枚目役者のペッペ、道化のカニオ「今夜23時(※)に芝居をやるから来てくれよ!」と叫ぶ。
※当時の南イタリアでは日没の祈りの一時間前をさしており、午後7時のこと。

カニオの妻ネッダは旅ばかりの暮らしに疲れている。
「空を自由に飛びまわる鳥たちのように、私も自由になりたい・・・」と歌う。

その様子を見ていたトニオはネッダに自分の恋心を打ち明けるが、
ネッダは全く相手にせずトニオを罵倒する。
頭に血がのぼったトニオはついに力ずくでネッダをものにしようとするが、
ネッダにムチで叩かれ、恨みの言葉を残しその場を去っていく。

するとそこへネッダの愛人シルヴィオが現れる。
村に旅一座が来たときにしかネッダと会えないシルヴィオは、
「いつまでこんな生活を続けるつもりだい?僕と一緒にここから逃げ出そう!!」
と迫るが、それに対してネッダは
「私を誘惑しないで。さぁ・・・何も考えずに私を見つめて、キスをして。」
とささやく。

その様子を影で見ていたトニオは「さっきの復讐をしてやる・・・」とつぶやき、
妻の浮気現場を見せるためにカニオをその場に連れてくる。
妻の不貞を目の当たりにしたカニオは逆上して浮気現場に乗り込み、
妻のネッダをナイフで脅し「今いた奴の名前を言え!」と叫ぶが、
ネッダはとぼけ通す。その態度にカニオは怒りが頂点に達するが、
危機一髪でペッペが間に入り、
「座長!これから芝居が始まります。まず衣裳に着替えてください。」
とカニオをなだめる。
怒りを必死に抑え、涙を流しながら道化の衣裳に着替えメイクをするカニオ。
「笑え、パリアッチョ!お前は道化なんだ!」と歌い第一幕の幕が下りる。
【第二幕】

夜。一座のコメディ芝居が始まる。
客席にいるたくさんの村人の中にはシルヴィオの姿もある。
ネッダが演じるコロンビーナは旦那の留守の間に、
恋人のアレッキーノと家で食事をしている。
そこへトニオ演じるタデオが、旦那の帰宅を知らせる。
あまりにも現実と似ている内容に、カニオは気が狂いそうになる。
芝居が進んでいくにつれて、演技と現実の境目がわからなくなり、
徐々に現実のネッダの浮気を問い詰め始めるカニオ。
客席の村人たちは「迫力のある演技だ!まるで現実のようだ!」と拍手喝さい。

次第にヒートアップするケンカ。
ついにはネッダも逆上し、芝居どころではなくなる。

そこへトニオからナイフを渡されたカニオは、ネッダを刺してしまう。
さらにはネッダを助けようと舞台に飛び出したシルヴィオも刺すと、
カニオは泣き崩れる。騒然とする中、トニオは客席に向かってこう叫ぶ。
「喜劇は・・・終わりました・・・」




「シルヴィオってどんなヤツなんだろう?」
シルヴィオをすごく男らしく解釈する人が多いけど、たぶんそれってどこか先入観。

僕はシルヴィオはただの若造だと思います。

ネッダは別にシルヴィオのことを本気では愛していないんだと思う。
むしろ本気で愛していて、あの二重唱なら、相当イヤな女。

人妻と少年の恋愛って少し前に日本でも事件がありましたよね。
ネッダはシルヴィオの若さや純粋さに惹かれてはいるけれど、
飽くまでその場限りの恋・・・ぐらいにしか捉えていないんじゃないかな?

だから
「一緒に逃げよう!」と迫るシルヴィオに対してネッダは
「私を誘惑しないで。そんなの戯言よ。どうかしているわ。」
というすごく冷めた返事。

そしてこの曲の中間部は通常カットされてしまうのですが、
この部分のネッダはもっと冷たいです。
「私の心は誰にも奪うことはできないの!ただ愛にのみ生き、その愛が私の心をかきたてるの!」


ここまで言われているのにネッダの言葉を遮ってまで諦めず迫るシルヴィオ・・・若い!

結局うまく濁されたまま、二人は抱き合います。
そして深夜に落ち合う約束をしたつもりのシルヴィオ。
「今夜・・・待っているよ・・・」 というシルヴィオに対して、
ネッダはただ「今夜・・・あなたのことを想っているわ・・・」 と答えます。
彼女は約束はしていない・・・。

もしカニオがあんなに逆上せずに、売り言葉に買い言葉のケンカにならなければ
(このケンカはトニオに操られたもの)、
たぶんネッダはシルヴィオのところには行かなかったでしょう。
ネッダはシルヴィオが思うよりも、カニオが思うよりもずっとしたたかです。

浮気に逆上した男が妻とその愛人を殺した・・・というのが悲劇なのではなくて、

本気の恋じゃなかったのに、それが原因で殺されたネッダ
冷静に処理すれば何てことはなかったのに殺人を犯してしまったカニオ
本気で愛し合っていると思いこんだまま、無駄に殺されたシルヴィオ
そしてただの復讐心だけで殺人を助け、結果的に何の得も見出すことのできないトニオ


すべての登場人物が虚しい結末を迎えてしまった・・・この空虚感こそが悲劇なんだと思うんです。




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