歌曲集「一枚の肖像画」(1994) 作詞:平井栄 作曲:古沢利人


@一枚の肖像画    (1994年5月1日 完成)
A北風と太陽      (1994年6月28日 完成)
B今にして        (1994年9月 完成)
C間奏曲         (1994年10月29日 完成)
D忘れたはずの    (1994年11月20日 完成)
E風よ伝えて      (1994年11月15日開始〜12月11日完成)

僕の高校時代の恩師、平井栄先生は僕たちが高校の修学旅行中、亡くなられてしまいました。
病気のことなど一言も口にせず、明るくユニークな国語の授業をされていた先生を思うと、
その精神的な強さと生徒に対する愛の深さに、ただただ呆然としたのを覚えています。
そんな平井先生が生前出版していた詩集「遠い人々」が、葬儀の後、生徒に配布されました。
その中の「一枚の肖像画」という詩集に曲をつけようと思い、学生時代に書いたものです。
曲調はあくまでジャンルにとらわれず、むしろポピュラーっぽいメロディラインを意識しました。


@一枚の肖像画
青春期の少年が片思いの人に思いを打ち明けようと、待ち合わせ場所に向かいます。
僕自身、まさに青春期に書いたので、今歌ってみると甘酸っぱく生き生きとした音に赤面してしまいます。
後奏で彼は都会の街の中に走り去ります。若さに満ちた爽快な歌。


A北風と太陽
有名な童話になぞらえて、「男の力強さと優しさ」を描いています。
平井先生の醸し出していた、ダンディズムを最小限の音で骨太に表現しようとしました。


B今にして
青春期にありがちな、気持ちとは裏腹な態度を揺れ動く3拍子で表現しました。
あの人を失った今になって悔いるけども、もはや取り返しのつかないもどかしさ。間奏に@のメロディが回想されます。


C間奏曲
ピアノのみによる間奏曲です。後悔ともどかしさに苦しみながらも無常に流れていく「時間」を描きたかった。
音階語法を意識していて、定まった調性はありません。


D忘れたはずの
常に一定のリズムで刻まれる和音が少しずつ移り変わっていき、
時が経てば経つほど、リアルに生々しく思い出される彼女との愛の場面がフラッシュバックされます。
「どうせあなたも通り過ぎていく一人」純粋さ故に「愛」への不信が彼を苦しめます。
言葉のリズムを重視し、拍子は言葉にそって変化させることを意図的に行いました。


E風よ伝えて
途絶えることのないピアノの旋律がそよぐ風を表しています。また、全音階的な旋律も随所に見られます。
ノートを広げて「思い返す言葉の数々」。しかしそれらの言葉はすべて空しいものです。
そんなとき一年前と同じ春の風が彼の横を通りすぎていきます。それはまるで青春時代の終わりを告げるように。




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