オペラ「ジャンニ・スキッキ」

作曲:ジャコモ・プッチーニ  原作:ダンテ「地獄篇」

【時代・場所】
1299年のフィレンツェ

【ストーリー】
死んだばかりのフィレンツェの富豪:ブオーゾ・ドナーティの寝室に、彼の親戚たちが集まっている。
強欲な親戚たちの狙いはブオーゾ・ドナーティの遺産である。
彼らは遺書をやっとの思いで探し出すが、そこには・・・
「遺産は全て修道院に寄付する」
・・・と書かれていた。
がく然とする親戚たち。そこへ現れたジャンニ・スキッキ。
わらにもすがる思いで親戚たちはジャンニ・スキッキに何か知恵はないか、と相談する。
最初は渋っていたジャンニ・スキッキだが、娘のラウレッタに説得されてようやく重い腰を上げるのだった。
いろいろ考えた挙句、
ジャンニ・スキッキが死んだはずのブオーゾ・ドナーティに変装し、
公証人や証人の前で改めて遺書を作り直すという計画を思いつくのだが・・・。


【人物】

ジャンニ・スキッキ(50歳/バリトン)
田舎の農村からフィレンツェに成り上がってきた知恵者。
ブオーゾの遺書の問題を解決するために呼び出される。


ラウレッタ(21歳/ソプラノ)
ジャンニ・スキッキの娘。まだ幼さの残る純粋な少女。リヌッチオと恋人同士。



ブオーゾ・ドナーティ
フィレンツェの富豪。すでに息を引き取り、オペラの舞台では死体として置かれている。


ブオーゾ・ドナーティの親戚

ツィータ(60歳/アルト)
ブオーゾの従妹。気性の荒い性格で、ジャンニ・スキッキを目の敵にしている。


リヌッチオ(24歳/テノール)
ツィータの甥。ジャンニ・スキッキの娘:ラウレッタと恋人同士。正義感の強い青年。


シモーネ(70歳/バス)
ブオーゾの従弟。以前は行政官をしていたが、今はややボケ気味の老人。


マルコ(45歳/バリトン)
シモーネの息子。何かあると行政官だった父に責任を押し付ける無責任な男。


チェスカ(38歳/メッゾ・ソプラノ)
マルコの妻。何かというと夫にすがる甘え上手。


ゲラルド(40歳/テノール)
ブオーゾの甥。妻に頭の上がらないダメ夫。


ネッラ(34歳/ソプラノ)
ゲラルドの妻。強欲な性格で夫を尻に敷く恐妻。


ゲラルディーノ(7歳/アルト)
ゲラルドとネッラの間に生まれた子供。両親から虐待を受けている。


ベット(年齢不詳/バス)
シーニャ出身のブオーゾの義弟。ボロ服を着ていて素性も年齢も不詳。
ブオーゾの遺書にまつわる噂話を聞きつけて来る。



医師スピネロッチオ(バス)
ブオーゾ・ドナーティの主治医。ボローニャで学んだことだけが誇りのヤブ医者。


アマンティオ・ディ・ニコライ(バリトン)
ブオーゾ・ドナーティの遺書を作成しに来た公証人。おだてとお金に弱い。


ピネッリーノ(バス)
靴屋。ブオーゾ・ドナーティの遺言に立ち会うために証人として呼ばれた。


グッチォ(バス)
染物屋。ブオーゾ・ドナーティの遺言に立ち会うために証人として呼ばれた。


※【人物名編】


【解説】
このオペラはプッチーニが作曲した最後のオペラ「三部作」の第3作・・・
つまり事実上プッチーニが最後まで書き上げた最後の作品です。(この後書かれた「トゥーランドット」は未完)
そしてプッチーニ唯一の喜劇。しかしそのテキストにはダンテの「地獄篇」を選んでいます。
この作品でプッチーニが描いたのはいわゆるドタバタ喜劇なのではなく、もっと深い意味での喜劇なのです。
それはこの作品に登場するブオーゾ・ドナーティの親戚たちで表されている、人間の中にある強欲という狂気
そしてそれをジャンニ・スキッキという高尚な人物によってやっつけてしまう、という痛快劇なのです。
・・・ぶっちゃけちゃえば、水戸黄門みたいなもんですよ・・・

見どころ
だからこの作品の見どころは、個性あふれる親戚たちが笑えるほどの強欲さを表現できるか、なのです。
そしてその中でジャンニ・スキッキが徳の高い人物のように(実は周りがアホなだけ)浮き上がれば良いのです。
「あ〜あんなおばちゃんいるよな〜」とか「ああいうやつ、オレの親戚にもいるよ〜」
・・・という感想を抱きながらご覧ください。


↓ここからは"通"な人が読んでね↓


もう一つの見どころは、リヌッチオ君とラウレッタちゃんの恋人同士に代表される若者の姿です。
もう一人いますね。7歳のゲラルディーノ君。
大人たちの理不尽な理由で反対される恋人同士。八つ当たりされ、虐待される子供。
いつも冷静に社会を見渡し、疑問を抱き、そして犠牲になるのは実は子供や若者たちです。
強欲や理不尽、無秩序な大人たちの中に彼ら若者・子供が紛れ込んでいるのは、
見逃してはいけないプッチーニからの強烈なメッセージです。
このオペラで表されている地獄のような大人たちの欲望に渦巻く世界も、
ラストシーンで若い恋人たちの目には「黄金色に輝き、美しく」映ります。
それをロマンチックな感傷めいた戯言だ、と笑う人にも、きっと昔そんな風に思えた時期があるはずです。
演出によってはこの若者たちを『世間知らずな幼稚な子供』のように描くことがありますが、
それは間違っていると思います。純粋で美しい心を持った子供たちを笑う権利は大人にはありません。
なぜなら誰しもが、恋する気持ちに胸をつまらせたり、
走り回って遊んだ公園が自分が知る全宇宙のように感じたことがあるはずだからです。

最後に・・・
この作品が作曲されたのは、二つの世界大戦の間の時期です。
その二つの大戦で多くの人間が死に、世界はまさに地獄のようになりました。
そしてその犠牲者の中には、大人たちの作り上げた歪んだ価値観に何の疑問を抱くこともなく、
尊い命を失った若者たち・・・
・・・そしてその中にはプッチーニ自身の息子も数えられるのです。
プッチーニが生涯の最後に表したかったメッセージ・・・
「強欲」という名の狂気じみた価値観に多くの純粋な人間が巻き込まれたことへの怒り。
IL TABLLO
死んでいった者の魂を癒してくれる、人智を超えた存在への救いを求める想い。
SOUR ANGELICA
それらを全て解決して笑い飛ばす痛快さ。---GIANNI SCHICCHI
ジャンニ・スキッキの名前「GIANNI」(=GIOVANNI)はラテン語に直して読むと「ヨハネ」
・・・預言者ヨハネ・・・


※【人物名編】


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